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美獣・下 lyrics

Performer Shing02

美獣・下 song lyrics by Shing02 official

美獣・下 is a song in Japanese

此処は、薄暗い牢獄也。
最期の陽が昇る一刻前。
獄の底にも情け在り。
獄の底にも情け在り。

隣の歯ぎしりが自棄に近く聞こえるなと思うと、
牢の扉が開く音で、蝋燭の灯に強面が浮かぶ。
ゴウウ隊長だった。「出ろ」と低い声で囁いた。
隣の牢を通り過ぎると、うなされている声が漏れて来る。
看守の姿は見当たらず、隊長の後を付いて地下の隠し通路から城の外に出た。
ひんやりとした夜明けの空気が、襟から背中に入って来る。

隊長が懐から首飾りを出して手渡した。
なんと、これは茗のものだ。どうやって手に入れたのだろう。

「次に生きて会う事あらば、命は無いと思へ」

ゴウウの腸は嫉妬にも似た憎悪で煮えくり返っていたが、
姫への忠誠と、国への忠義とがそれを立派に抑えていた。
ゴウウに頭を下げて、朝霧に向かって踏み出した。
下に気配を感じると、足元にビジュウが付いてきている。
(お前か、お前が茗からの言づてを届けてくれたのかい)
こちらを振り返るビジュウを追って、山道を歩き続けた。
そして夕暮れには、ネヘトに着いたのだった。

集落の外れにある酒場の前では、ラーの兵隊が談笑していた。
ビジュウは止まり、こちらを見てから、裏に消えて行った。
頭巾を被って中に入ると、思いの外、混んでいる。
見渡すと、隅の薄暗い席に茗らしき人物が背を向けて座っていた。
その輪郭は、疲れを吹き飛ばした。

いざ歩み寄ろうとすると、すっと横から現れた細い手に遮られた。
振り向くと、端正なつくりに、風化した美貌が見てとれる。
媼は、壁際へ合図すると強い口調でこう囁いた。
「狩麻さま、私はインガ、茗姫の付き人です。
今はいけません、あなたはつけられています」
「伏せて!」兵隊が入って来たようだ。
屈んだ時に、首飾りが飛び出た。
インガの動きが止まった。
「それは、茗君が忘れたもの、私が返しておきます」
無理矢理はぎ取り、インガは続けた。
「あなたはこの裏に繋いである疾風に乗って国境を越えなさい。
私達はここに集まった難民に紛れて、谷を越えます。
トゥリの森の祠で落ち合いましょう。さあ」
と言って背中を押される。
裏口から外に出ると、墨汁のように黒い雄馬がつないであった。
飛び乗って街道に出ると、疾風の名の如く、
神話のように、風と三位一体になった。

追手が四騎、ぴったりとくっついてきている。
(しまった。警備隊か、それとも罠か)
容赦なく矢が飛んで来る。石臼を素早く回した音が擦る。
自分は右肩に、そして疾風は左の尻にかすり傷を負ったが、砂塵を上げて走った。
正面に暗がりの帯が見える。テミュだ。
すると疾風は道を外れて、
斜めに走りながら崖の淵を見定めると、上体を闇の中に投じた。
人形になったみたいに力が抜けて、水に投げ込まれたような抵抗を感じた。
疾風は何度も鋭角に切り返しながら、
野生の山羊の如く斜面を一気に駆け下りた。
(やったぞ)
遥か頭上から、馬の荒い吐息が聞こえ、何本かの弓が頭上を外れて行く。
その後は、目を剥いて走る疾風の、脈の浮いた首にしがみついているだけだった。

トゥリの森の入り口には、黒い瓢箪が沢山吊るされていた。
その一つの目が開いた。瓢箪の正体は、守役の蝙蝠達だった。
口元まで覆ったマントから漏れてくる鳴き声は、
こちらを辛かっているように聞こえた。
<ききき、お前はいつまでもビジュウの虜だよ> と。
手綱を握り直して、疾風に凭れながら森の中へ入って行った。

祠の周辺は、静かだった。
川の水にありつき、怪我の手当てをしながら、木の葉に沈んで思いに耽る。
あすこで茗から離れるべきではなかった……
茗達が無事に国境を越えても、此処に寄る理由はあるのだろうか。
それにしても茗は、ビジュウのかかった罠が、
誰のものか知っていた上であの晩、訪ねてきたのだろうか。
それともビジュウの方が、何らかの罠だったのではないだろうか。
あれこれ考え、空腹に困憊しながらも、
茗の感触が尚も情欲の幹に、蔦を巡らせていた。

冷たい刃が首筋に食い込み、びくっと起きた。
顎を上げて、素性をゆっくり話すと、
憲兵は、疾風を見ながら剣を鞘に収めた。

「これは失礼。私はヤーの憲兵隊長のボンノだ。
実は、難民のキャラバンが密告により捕まって、
見せしめにアーウンの広場で処刑されそうなのだ。
その中に、茗君がいたのだ。我々は姫を助けに行かねばならぬ」

密告とは、すべてインガの策略だったのか。
斯くして、自分は囮であったにせよ、
茗に救ってもらった上に、彼女を疑った愚か者だった。
今度は、自分が茗を助けに行く番だ。
約束を守る時が来たのだ。

身支度をする間、疾風は嫌そうに鼻息を荒くして、蒸気を上げていた。

計五十騎の精鋭は暗がりと同化して走った。
朝焼けと共に、渓谷の岩肌に太陽の慈愛が溢れる。
今日この身に何が起きようと、太陽は明日もその次の日も、
同じように昇るのだ。

アーウンの城下町に到着し、先頭を切って広場に雪崩れ込むと、
およそ数十名が杭に縛られていたが、兵は誰一人見当たらない。
茗の名を叫びながら探していると、インガがいた。
「インガ、茗は何処だ」
「テミュでお別れしました…… 私は……」
それ以上、声が出ない。
城からラーの軍隊が一斉に出て来た。
インガの綱を断ち切ったが、助ける暇はなかった。
街の中に散った。
迷い込んだ路地裏では、暴れた憲兵の馬が、逃げ惑う少女を押し潰していた。
倒れた少女の口から深紅の絵の具が垂れて、顔を伝った。
(自分は一体、何に加わってしまったのだ)
街道に向かって逃げ出した。

突然現れた人影に、疾風の下腹が切られて、地面に投げ出された。
「覚悟」
と一振り祓ってから、ゴウウは刃先をこちらへ向けた。
咄嗟に叫んだ。

「人は、なんという獣よ!
無駄に命を奪い合い、尊い血を流している。
ましてや、罪なき子供までを」

ゴウウは、吐き捨てるように言った。
「思い上がるな、狩人め。人生は、所詮獣道よ。
牢から逃がしたのは何故だか分かるか。
貴様の引き出しにあった首飾りに免じて、
囮として泳がせたまでよ。

(引き出し? 開けたときはなかったはずだ。
それとも、見えなかっただけなのか)

刀が振り上げられたその瞬間、一本の矢がゴウウの喉を射抜いた。
ゴウウは最期の一息を吸い込み、大木のように伏した。
振り向くと憲兵の一人が、竪琴の奏者のように、
指先を大きく開いたまま、固まっていた。

疾風は、永久の眠りについていた。
ヤーの後続部隊が攻め入い、
城下町の所々から破壊の狼煙があがっている。
そのおぞましい絵巻を背にして歩き始めた。
正門の前には、首のない蛇のレリーフが横たわっていた。

もう、長いこと亡霊のように歩いている。
ゴウウの言葉は、後頭部への鈍器となった。
自分は何も知らなさ過ぎたのだ。
知っていた世界と言えば、空が何処までも続き、
光と闇が交代で治めている山河だけだった。
一途な感情に操られた闇雲な立ち回りが、
どれほど哀れに映っていたのか、計り知れない。

しかし日常と言う額縁は、ビジュウと出会って粉々に壊されたのだ。
それが運命に逆らった報いなのか、
いや、何事もなく過ごすことは時代が許さなかっただろうし、
そんなものは所詮、偽りの平和に過ぎない。
だからこそ、生きて森の祠まで戻らねば。

見上げると高い雲の棚から、光の筋が何本か差し込んできている。
それは天と地を結ぶ道を、いくつもの魂が行き来しているように見えた。
(茗、人がそれぞれ描く景色を重ねて映したら、それは異形の国に見えるのだろうか)

褐色の肌に立てた爪痕のような三日月が北西の空に現れる。
その少し前に森の祠では、
祈るために集まってきた難民の中、
麻布に身を包んだ茗が首飾りをつけて休んでいた。
そしてその横では、ビジュウが丸くなっていた。
黄金を溶かしたような夕陽を浴びても、
清水のように透き通ったビジュウの体は、
影一つ落とさなかった。

これは遥か未来の、昔話。
或る異形の国の物語。
美しき獣にまつわる情事也。
美しき獣にまつわる情事也。
Lyrics copyright : legal lyrics licensed by Lyricfind.
No unauthorized reproduction of lyric.

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